ハニの「青い珊瑚礁」ブームを振り返って|我々はスター誕生の瞬間を目撃したのかもしれない

NEWJEANS 5 minites NewJeans
人気K-POPガールズグループ「NewJeans」が2週間近い日本滞在を終え、本日7月7日に韓国へ帰国しました。彼女たちがこの2週間に日本で巻き起こしたブームについて振り返ります。

ハニの「青い珊瑚礁」旋風とは?

まったくご存知ない方もいるとおもうので、一連の出来事のおさらいです。
まず、事の発端は、6月26日に開催されたNewJeans初の東京ドーム単独公演「NewJeans Fan Meeting ‘Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome’」で披露された、ある日本の曲のカバーでした。この日の公演では、NewJeansの持ち歌が10曲ほど披露されたあと、各メンバーによるソロパートに移りました。そのソロパートの最後に、メンバーの1人「ハニ(Hanni)」が松田聖子の代表曲「青い珊瑚礁」を見事に歌い上げたのです。
11曲目: 踊り子/MINJI(Vaundyカバー)
12曲目:プラスティック・ラブ/HYEIN(竹内まりやカバー)
13曲目:Butterflies(With U)/DANIELLE(初公開の自作曲)
14曲目:青い珊瑚礁/HANNI(松田聖子カバー)
YouTube動画をみる限り、その前に披露されていたミンジ(MINJI)による「踊り子」やヘイン(HYEIN)による「プラスティック・ラブ」もかなりの盛り上がりを見せていました。
しかし、ハニの青い珊瑚礁が観客に与えた衝撃はそれ以上に凄まじいものがありました。イントロが流れ、ハニが歌い出してからしばらく、予想もしない展開に会場がパニックになっている様子が、ファンが投稿した以下のYouTube動画からうかがい知れます。(冒頭30秒は映像がなく、あくまで音声からの推測)
(イントロが流れる)
「えっ!?」「なんでー!?」「!#?%&!」
(ハニがライトアップで登場)
「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」 (無数の「ヤバい」)
(ハニが「あ〜、私の恋は〜」と歌い始める)
観客の絶叫(ウォー!)「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」 
「かわいい!」「うれしい!」
「ハニが歌い終わり、会場が暗転してからも、衝撃の余韻でどよめきが続くほど、東京ドームは高揚感に包まれた」との記事もあります。

なぜ、ここまでブームになったのか?

散々記事になっているのでだいぶ知られたのではないかと思いますが、今回のブームの背景となった、松田聖子という歌手や「青い珊瑚礁」という曲についてのおさらいです。
松田聖子は、いまから44年前  1980年4月1日 18歳のときに「裸足の季節」でデビューした、日本を代表するアイドル歌手です。「青い珊瑚礁」は、同年 7月1日に発売された彼女の2nd シングルで、彼女を一気にスターダムに上らせた名曲です。
実はこの「青い珊瑚礁」という曲は、カバーするのが極めて難しい曲とされています。それは、松田聖子がデビュー当時にもっていた明るさ、透明感、清純さといった雰囲気と、彼女がもつ高音域まで一気に駆け抜ける伸びやかな歌声、爆発的な声量が揃わないと、この曲の世界を描ききれないし、聴衆がその世界に没入できないからです。
かつて、この曲をカバーした歌手は何人もいました。しかし、そのだれもが往年の聖子ファンに失望感を与え、酷評されたと言われています。ある者は、透明感や清純さといった雰囲気に欠け、またある者は、伸びやかな歌声や声量が足りずに、この曲の世界を描ききれなかったからでしょう。
松田聖子のファンからすると、松田聖子が描いてくれた、自分の青春時代の良き思い出を壊されるような気がしたのかもしれません。視聴者も、「青い珊瑚礁のカバーを披露」と聞くと、無意識に別の番組に変えるようになり、さらに年月が経ち「青い珊瑚礁」をカバーする歌手もいなくなりました。

その日本人が超えられなかった壁を、ベトナム人の血をもつオーストラリア生まれの19歳のK-POPアイドルがぶち破ったのです。

その衝撃は、YouTube動画の視聴数にみてとることができます。当日現場にいたファンによって公開されたYouTube動画の閲覧数、いいね、コメントの増加速度はどれも凄まじく、一番閲覧されているこちらの動画では、公開後10日間で 516万回、13万のいいね、1万2000件のコメントがついています。
その他 50万〜100万回閲覧の動画が複数あり、7/7現在 たったの10日間で合計1,000万回近く関連動画が視聴されていると推定されます。
さらに、7/6に日本テレビで放送された「THE MUSIC DAY」でテレビ初披露されたこちらの動画は、公開後24時間で 115万回再生されています。(翌日には日本テレビの申し入れにより削除)
このブームはNewJeansのファン層以外にも波及し、しばらく続きそうです。

ハニが描きなおした「青い珊瑚礁」の世界

一部メディアは今回の件を「往年の松田聖子ファンや日本人のノスタルジーを掻き立てたから日本中が熱狂した」などという見方をしています。
しかし、YouTubeのコメント欄を見る限り、それは事実と異なっていると思います。
コメントしているのは日本人よりも韓国人のほうが多く、中国人も混じっています。また、松田聖子と同世代の男女だけでなく、親がファンだった子供の世代とか、言葉使いからそれより更に若い世代と思われるコメントも多数あります。そして、彼らのコメントの多くは、
「かわいい」「すばらしい」「感動した」「アイドルとしての輝きがまぶしすぎ」
であり、ノスタルジーなどではなく、人々が「アイドル」とか「スター」に対して抱く純粋な感情そのものなのです。
当時の松田聖子の単純なカバーでは、ここまで熱狂は起きなかったと思います。
この熱狂の根源は、原曲が持っている躍動感を、ハニが甘くのびやかな歌声で再現し、かつ彼女のもつかわいらしさとお茶目さを振り付けの随所に加えることで、まったく新しいコンテンツとして作り直したところにあるのではないでしょうか?

ミン・ヒジンの戦略とそれを形にしたハニの才能

今回、ハニに「青い珊瑚礁」を歌わせることを決めたのは、NewJeansのプロデューサーであるミン・ヒジン代表です。
彼女は、朝鮮日報の7/2の記事で 「東京ドームという大きな舞台で、予想外の曲に実際に向き合った時のカタルシスは途方もないだろうと予想しました。」と、ハニが青い珊瑚礁を歌ったときの聴衆の反応をあらかじめ予想していたと語っています。
さらに 今回のサプライズのために配慮した点とハニの才能について、以下のようにも述べています。
  • 「単に同じように再現することに焦点を当てず、松田聖子の象徴的な特徴を反映しつつ、ハニに似合うスタイルで再解釈することに重点を置いた」
  • 「このような反応が得られたのは、何よりも曲を完璧に消化したハニの才能が圧倒的だったから。ハニが曲を完璧に自分のものとして体得し、理解し、消化したからこそ、このような熱い反応が得られたと思う」
  • 「26日の初日の舞台では、舞台の動線のために(ハニが歌いながら)走らなければならなかったが、そのディテールを見て感嘆した。本当に天性のアーティストだと思いました。」
「今回の件は、ハニの才能が可能にした出来事だ」とミン・ヒジン自身が述べているのです。

これからのNewJeansの可能性

もともとNewJeansは、メンバーの個性が全く異なること、それが組み合わされることで他のK-POPグループにない魅力を発揮しています。
ミン・ヒジンも、2024年2月のある記事の取材に「NewJeansのメンバーとして、あの5人を選んだ理由は?」と聞かれ、以下のように答えています。
なにより5人の個性が極めて異なるということが挙げられます。グループ内で重複するポジションやイメージを作りたくありませんでした。不必要な競争構図やストレスを作りたくなかったからです。グループでの活動はチームワークが非常に重要です。全く異なる性格や個性の融合は個人個人に競争力があるという前提の下で、集団内に自然と自信を誘発させ、安定感を形成することができます。自発的にお互いの個性を尊重し、それぞれの魅力を自信を持ってアピールすることができる環境を生み出したかったのです。
今回のブームは、NewJeansの5人のメンバーの1人「ハニ」の才能を、松田聖子の「青い珊瑚礁」という曲とかけあわせたときに、何がうまれるのかの1つの実験とも取れます。
「ハニ」自身もこれからまだまだ才能を伸ばしていくでしょうし、彼女が出会うコンテンツ次第で、また別のブームを巻き起こすかもしれません。
しかも、NewJeansには、「ハニ」と異なる個性と才能をもったメンバーが他に4人もいるのです。
例えば、今回の東京ドーム公演でVaundyの「踊り子」をカバーしたミンジについては、その美貌と相まって、「映画のワンシーンを見せられているような感じがした」とコメントしている音楽評論家もいました。
また、「Get up」を歌っているヘインは、若干16歳。今回の公演や 7/6の日本テレビ「THE MUSIC DAY」で竹内まりやの「プラスチック・ラブ」をカバーし、その圧倒的な歌唱力と存在感を見せつけました。
普段は5人の異なる才能をかけあわせて楽曲をつくっているので、個々人の才能が1人だけ大きく目立つことは少ないかもしれません。
今回の件は、「NewJeansのメンバーは、一人ひとりすごい才能をもっていますよ」というミン・ヒジンからのメッセージのような気がしてなりません。
そう考えるとNewJeansがこれからの音楽シーンにどんなサプライズをもたらしてくれるのか、非常に楽しみです。